血糖値を測ったら、暗黙知の精度が見えてきた

去年の夏、フリースタイルリブレをつけ始めた。

腕にセンサーを貼って、血糖値を24時間リアルタイムで見られるデバイスだ。もともと減量をしていたけど、停滞期になっていた。ドクターにアドバイスをいただき、自分の身体で何が起きているのか、ちゃんと数字で見ようと思って始めた。

白米を食べると、血糖値が急上昇する。それまで1食120g食べていた米を半分くらいに減らして分散し、食べる順番も変えた。米は最後。野菜、タンパク質、脂質を先に入れてから、最後に炭水化物。玄米と白米で実験したり、65g、70g、どれが自分に最適かテストした。

血糖値のスパイクを減らすためにとても苦労し、今はスパイクが起きないようにコントロールできるようになり、身体が軽くなって思考がクリアになった。

クリアになったというのは、ぐるぐると考える前に、先に動くことが増えた、ということだ。

以前は、考え倒さないと動けなかった。あらゆる可能性を検討して、リスクを洗い出して、準備が整ってからやっと手を動かす。しかもその思考のループで結局動かなかったりもした。それが変わった。「とりあえずやってみる、走りながら考える」が自然にできるようになった。

判断のスピードが上がった、というより、判断の手前にあったノイズが減った感覚に近い。

血糖値が安定しているとき、頭の中が静かだ。余計な不安や、先回りした心配が少ない。だから、目の前のことにそのまま反応できる。

そして、不要なものが、自然に消えていった。

例えば、案件。受けなくてもいい仕事がわかるようになった。人間関係。愚痴っぽい人が周りからいなくなった。距離を取ったのではなく、自然に消えた。酒もやめた。モノも減った。

思考がクリアになると、自分にとって大事なものと、そうでないものの区別がはっきりする。判断に迷いがなくなるから、手放すことに抵抗がなくなる。

収入も上がった。AIの領域にシフトしたことで需要が増えたのが大きいけど、それだけじゃない。「これは自分がやるべき仕事か」という判断の精度が上がったから、結果として密度の高い仕事だけが残った。

血糖値を整えたら、仕事の精度が上がった。こう書くと因果関係が飛躍して見えるかもしれないけど、実感としてはかなりつながっている。

ただ、いいことばかりでもなかった。あんまり感情が動かなくなった。

嬉しいとか悲しいとかが、前より薄い。以前は気分の波があって、落ちるときはガッと落ちたし、上がるときはワーッと上がった。それが、淡々としている。仕事も、人との会話も、映画を観ても、「ああ、そういう構造ね」と冷静に眺めている自分がいる。

悪いことではないのかもしれない。でも、なんだろう、味気ない。血糖値のスパイクが減って、感情の波が穏やかになった。頭はクリアだ。判断も早い。でも「心が動く」感覚が薄れた気がして、それはそれで、ちょっと困った。

今はどうかというと、正直、まだよくわからない。

冷静に観察している自分もいる。一方で、夜中の3時まで一つのことに没頭している自分もいるし、両方いる。どっちかに決まったわけじゃない。ただ、集中力は明らかに鋭くなった。以前の「感情に振り回されてる状態」と「淡々としている状態」の間に、もう一個あるのかもしれない。集中して没入しているけど、冷静でもある、みたいな。うまく言えないけど。

ここで、前回書いたSECIモデルの話を少し思い出す。

野中先生は、身体性こそが知識創造の土台だと言っていた。血糖値を整えて、身体が軽くなって、思考がクリアになった。その結果、判断の精度が上がり、仕事の質が変わった。ここまではわかる。

でも「感情が動かなくなった」は、たぶんまだ整理がついていない。

わかっていることだけ書くと、身体のコンディションがいいとき、目の前にいる人の話の裏にある本音を掴みやすい。言語化されていない違和感をキャッチできる。逆にコンディションが悪いとき、センサーが鈍る。暗黙知を掴む力は、身体の状態に依存している。ここはたぶん合っている。

「観察者として冷静にいる力」と「文脈に没入する力」が、どういう関係なのかは、まだわかっていない。両方いる、としか今は言えない。

ただ、自分主体で何かを作ろうと思えるようになったのは、感情が動いてるんだろう、とも思う。自分の好きなものを突き詰めていきたい欲求が出ている。

このサイトのテーマは「テクノロジー × 身体性」だ。

サイトを作るとき、なんとなく決めた。AIの話も書きたいし、登山や血糖値の話も書きたい。両方やりたいから、掛け算にした。深い意味があったわけじゃない。

でも今、振り返ると、最初から答えだったのかもしれない。

AIが形式知の処理を代替する時代に、人間に残る価値は、身体で文脈に入って暗黙知を掴む力。その力は、身体のコンディションに依存する。テクノロジーを使いこなすためにこそ、身体を整える必要がある。

テクノロジー × 身体性。

たぶん、この掛け算は、これからもっと大事になる。

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